館長からのメッセージ

雑魚を美味しく食べる会

アクアマリンふくしまは、M,S,Nの運営方針を堅持している。

M=Microcosmは理想の小宇宙をつくる展示方針である。
S=Sustainabilityは持続可能な漁業、自然との共生を目指す教育方針である。
N=Non-Charismaは、カリスマ的でない普通種について研究する研究方針である。


Non-Charisma種は雑魚に置き換えることもできる。雑魚は川にも湖にも沿岸にもすむが、市場で高値がつかないので軽んじられている。昔はこの雑魚として扱われていたメヒカリが、いわき市の魚として条例制定された。地引き網漁の混獲魚だが、美味しくても市場価値が低かった。しかしその後、メヒカリの市場価値が上がり、今や雑魚のブランド化の成功例になっている。アクアマリンふくしまは、今後もメヒカリのようなN=普通種=雑魚を生態解明の対象として研究に取り組んでいくことにしている。

マルアオメエソ(メヒカリ) マルアオメエソ(メヒカリ)

被災後のアクアマリンふくしまは、新たな視点から集客力の強化が求められている。そのため、「おとなの水族館」計画の施策の一つとして、会員制の「雑魚を美味しく食べる会」(雑魚の会)を発足させ、雑魚のブランド化を話題にした懇親会の場(年12回)をもうけることにした。会場は、黒潮と親潮のつくる「潮目の海」の大水槽前、竜宮城として、アクアマリンふくしまのシェフが腕をふるう。地域の寿司店やケータリング会社の出前もある。魚食文化を味わいつつ漁業の持続性について議論と歓談をする年12回のイベントである。

1.開催時間:毎月第三金曜日、閉館後18:30~21:30の3時間。
2.アトラクション:地域の伝統芸能など。
3.各月メニュー:おおむね四季のメジャーな魚のメニューに、雑魚メニューをまじえる。
様々な飛び入り雑魚が含まれている。

1月:お正月めで鯛づくし・・・マダイ、チダイ、クロダイ、伊勢エビ
2月:冬の味覚・・・アンコウ、ブリ、マダラ、ホッケ、牡蛎
3月:春の磯・・・ウミタナゴ、アイナメ、メバル、ウニ、なまこ
4月:春の渓流・・・岩魚、ヤマメ、カジカ、沢ガニ、山菜天ぷら
5月:潮目の海・・・初鰹、メジマグロ、シロギス、マス、ホヤ
6月:常磐のブランド・・・スズキ、ナメタガレイ、ヤナギムシガレイ、ボラ、水ダコ、 ヤリイカ
7月:川の雑魚集合・・・アユ、ウグイ、ウナギ、ナマズ、ブラックバス、手長エビ
8月:奄美の海・・・キハダ・グルクン・アイゴ、アオブダイ、ゴシキエビ
9月:大洋の航海者:・・・クロカジキ、シイラ、マンボウ、水母
10月:深海のブランド雑魚・・・ムツ、アカムツ、アブラボウズ、タカアシガニ
11月:秋の味覚・・・もどり鰹、銀鮭、鯖、サヨリ、ヒラツメガニ、モクズガニ
12月:地中海料理・・・マトウダイ、カワハギ、ウマヅラハギ、ムール貝


[余談]:
「漁場から食卓まで」
上野動物園、池之端を経て、不忍通りが、言問い通りとの交差点を左折すると、東大の農学部や工学部がある。左折してすぐに、土俵屋という飲み屋があった。東大の先生方や私を含めて上野動物園の職員と地元根津の下町の人々のたまり場だった。土俵屋の主、山本保彦氏は料理人だったが、物書きでもあった。東大の魚類学者、阿部宗明博士は築地魚市場の資料館長も兼務していた。それに,水産学者、本間昭郎博士が加わった。そして、漁場と食卓を結びつける一般書を編纂しようと、意気投合した。執筆陣は、大先生のもとにはせ参じた。私も、七つの海の珍魚などを紹介するグラビアを担当した。アクアマリンの環境芸術祭の常連、関俊一画伯にグラビアの絵をお願いした。そして、大著「現代おさかな辞典」が、ついに1997年11月に完成した。大著は優に3kgはあり、37000円。しかし、好事魔ありで、翌年1月に土俵屋の主、山本保彦氏は急逝してしまった。執筆陣は「魚を美味しく食べる会」という会をつくった。市場で値のつかない普通魚のブランド化の試みだった。会員が交代で魚種を選定し、仕入れ、調理を土俵屋にお願いした。 父上の急逝で、ご子息の山本大氏はやむなく土俵屋を閉店、一階部分に「海山」を開店した。海山は東大の海洋学者の命名であると思っていたが、本人に聞いたところ、ご自身の発案だった。海山のメニュー黒板にはいつも小名浜のサカナのメニューがあった。彼は「海を食べる」アクアマリンふくしまのありかたに共鳴していた。
2011年11月から、山本大氏は、根津の「海山」をたたんでアクアマリンの山本海山になってくれた。「魚を美味しく・・」は「雑魚を美味しく・・」として、引き継がれた。父上保彦氏の遺志も引き継がれることになる。