第77号|
サラーム・汝に平安あれ
昔、筆者が所属した東京都建設局公園緑地部計画課は、東京の奥多摩から指のように都心にのびる5本の丘陵地帯の保全に「緑のフィンガープラン」という壮大な計画をもっていました。結果的には都市化で緑の指はずたずたになってしまったのですが。小名浜港2号埠頭に2000年に誕生したアクアマリンふくしまは開館以来、常に、この名前を忘れずに「緑のフィンガー」の完成を目指してきました。その夢は、2011年の災害によって加速されました。二号ふ頭のフィンガーにはまっている宝石アクアマリンふくしまは、緑に囲まれ、その輝きをましております。
3.11直後から、世界の動物園水族館の友人たちに深刻な事態を伝えると、思いがけず筆者が20代に所属した中東のクウェート科学研究所の支援でクウェート国から300万ドルの莫大な支援がありました。そして、港オアシス里山計画として私の「夢」が現実のものになりました。小名浜港二号埠頭の外構域の緑化計画は、縄文時代にセットバックさせ、里山のいやしの環境づくりにしました。“海・山・川の好循環こそ”、つまり、豊かな阿武隈の地先の自然が健全でないと海のマグロも育たない。戦後植林し樹齢70年余の杉材で、元林野庁ご出身の木彫家に「森のマグロ」を彫っていただき、マグロ大水槽前の空間に吊り下げました。
外構域には、鮫川石を水中に配した「クウェート・ふくしま友好記念日本庭園」と「わくわく里山・縄文の里」が実現しました。日本庭園の巨石に刻む文字についてナジ・ムタイリ・クウェート科学研究所長に相談すると、彼は言下に、それは、「最も短いアラビア語の一文字『サラーム』・汝に平安あれだ!」でした。
小名浜港の「みなとオアシス」は、アクアマリンふくしまの「緑のフィンガープラン」の成果です。”森のマグロ“と、「わくわく里山・縄文の里」は、海山川の開発でなく「逆開発」のシンボルにしたいものです。サラーム「汝に平安あれ」。
ところで、いわきの海は、浦島太郎伝説の北限とされています。筆者はアクアマリンふくしまの龍宮城に21年、ついに浦島太郎伝説にしたがって7月1日づけで、里帰りして浦島太郎に改名します。小名浜港二号ふ頭に、宝石のように輝く環境水族館アクアマリンふくしま。2000年の開館以来、地域の皆さま、そして、アクアマリンの同僚、内外の水族館の皆さまの御支援に深く感謝を申し上げます。今後も、海洋立国、水産立国を目指しつつ、わが国の魅力のシンボルとして、アクアマリンの輝きが保たれることを祈念しつつ、退任の御挨拶と致します。有難うございました。
2021年6月30日
安部 義孝