館長からのメッセージ

被災から学んだこと

アクアマリンふくしまのプロローグは、「海・生命の進化」。まず、46億年前の地球創世と38億年前の生命誕生から6億年前の原生代までを数分のCGでたどる。6億年以降に現生生物のほとんどの祖先系が短期間に爆発的に進化した。それが、カンブリア爆発である。アクアマリンふくしまのプロローグでは、現世でも生き残っている少数の、カンブリア爆発の申し子たち、いわゆる「生きた化石」たちを水槽と化石になった仲間をならべて動物系統樹をたどる。

 

3/11後、全てのライフラインが途絶し、全循環停止、緊急の自家発電によるエアレーションも燃料に限界があったため、多くの生物を失った。しかし、「生きた化石」たちは、暗闇と低温と低酸素の環境激変を生き延びた。そして、3月末から4月にかけて、各地の水族館に避難していった。また、最上階の阿武隈の渓流や地域の淡水生物たちも環境激変に強かった。

環境激変

館内のガラス屋根の下の20平方メートルばかりのタッチプールの生物たちも生き延びた。岩礁に自生した海藻類による光合成が環境の維持に貢献した。太陽光と植物が環境を維持に貢献した。水族館「水処理工場」に支えられる巨大水槽やサンゴ礁水槽は停電に弱かった。

環境激変2

水族館の諸設備の中心は水処理設備であり、標準的な水族館は全て閉鎖循環式の水処理設備を備えているが、これらは停電で全機能を停止する。飼育水の水温管理も、季節にかかわらず、恒温の水温設定で管理される。停電による水温低下は、サンゴ礁魚類には致命的である。循環型水族館は、産業革命の技術革新がもたらした。1860年,英国人ロイドが開発した循環方式は、簡単な濾過槽と大容量の貯水槽間をポンプで循環した閉鎖循環式の飼育装置だった。濾過槽における水質浄化のメカニズムは解明されていなかったものの,大容量の貯水槽が水質浄化機能に貢献した。オランダのロッテルダム動物園のアーチス水族館にが今日でもロイド式が現存する。1952年に上野動物園に開設された海水水族館もこの方式だった。

■調和水槽への回帰

コンラートローレンツが『ソロモンの指環・動物行動学入門(1987)』で著した、ローレンツアクアリウムが思い浮んだ。ローレンツは、窓辺の小水槽に、水草を植え、レマン湖の湖底を再現してみせる。循環ポンプやエアポンプの無かった時代には、淡水生物の飼育は、適量の生物と、光と水草の微妙なバランスをとることが飼育のこつだった。このような水槽をバランスド・アクアリウム、調和水槽という。

調和水槽

経験的に調和水槽をつくるための法則に、インチ・ガロンの法則がある。1インチ(2.5cm)の魚には1ガロン(約4リットル)の水と,水草が必要というものだ。もう一つに、インチ・125cm2の法則がある。1インチの魚は,125cm2の水面が必要というものだ。技術革新の今日でも、水生生物を飼育する場合には,いつも頭の片隅に覚えておく必要がある。水族館のしくみとは,濾過循環設備によって、窒素のサイクルの前半部分,すなわち、魚の分泌排泄物に由来するアンモニアの除去を受け持つ。調和水槽をより安定的に維持する技術であるといってもよい。人工環境に、自然環境のサイクルを付加すれば、災害に強く、より経済的な水族館が実現するにちがいない。この災害から多くのことを学んだが、最大の収穫はローレンツの原点回帰である。展示方針もそれに沿って変更もありえよう。

アクアマリンふくしま 館長 安部義孝