館長からのメッセージ

アクアマリンメヒカリサミット2010

ウオーターフロント再開発計画で2000年に開館したふくしま海洋科学館・アクアマリンふくしまは、「ショーがない環境水族館」を看板に、開館以来、インドネシアとアフリカのシーラカンスの調査に取り組み、また、サンマのような水産重要種の生態解明に取り組んできた。自然との共存、持続可能性・サステイナビリテイを教育普及活動の柱にしている。
 この活動の一環として「メヒカリサミット」を毎春開催し、回を重ねている。
 はじまりは2001年、いわき市が水産振興策として市の魚を制定するため、漁業組合関係者、水産試験場、消費者を代表する委員からなる選定委員会を設けたことだ。水族館の私が選考委員長に任命された。 委員会の議論は、漁協を含む生産者委員と主婦や料理研究家など消費者委員の間で議論がかみ合わなかった。金額の大きいカツオやサンマ、アンコウ、ヤナギガレイなどが、生産者側には支持された。しかしカツオは土佐、サンマは気仙沼(当時)、アンコウは常磐がすでにブランド化していた。消費者側委員には、安くておいしいメヒカリ・マルアオメエソが支持された。

議論に終止符を打ったのは市民アンケートだった。メヒカリが、カツオやヤナギムシガレイを引き離して廉価でおいしいと支持されたのである。2001年10月、いわき市はメヒカリを市の魚に条例制定した。

水揚げの様子。港のありふれた、しかし大切な風景。 水揚げの様子。港のありふれた、しかし大切な風景。

バイキャッチにしかすぎなかったメヒカリを市の魚に制定した意義は、消費者不在の感があった水産行政のヒットであった。庶民の魚が市のシンボルとなったのだ。メヒカリは分類も生態も謎の多い魚だったので、いわき市はメヒカリの生態調査研究を2年にわたりアクアマリンふくしまに委託した。研究報告会は「メヒカリサミット」と銘打って、2005年3月に第一回が開催された。
以後、毎年春先に、第二回、第三回と回を重ね、昨年の第四回アンコウに続いて、今年の第五回はエゾイソアイナメ、ドンコをテーマにした。メヒカリの全生活史解明は未だに至ってはいないが、水産物としてはブランド化され、今や地域はもとより東京の縄のれんでも定番になっているようだ。アンコウは幼魚が変態しつつ黒潮分流に流され常磐いわき沖に着底して成長することはアオメエソと共通だが、生活史の全容は明らかになっていない。安くておいしく、魚価も安いドンコも生態が明らかになっていない。


アクアマリンでは一昨年から「弁財天うなぎプロジェクト」を立ち上げ阿武隈の中小河川でのニホンウナギの生態調査に取り組んでいる。当地の賢沼寺(けんしょうじ)弁財天の賢沼(かしこぬま)には、かつてオオウナギが生息し、天然記念物になっているが、現在その姿はない。三面張りの河川が沼へのウナギの遡上を妨げているのだ。住職に許可を得て、プロジェクトに水神の「弁財天」を冠した。「ウナギは地球環境を物語る魚」といわれるように、産卵場とされるマリアナ海域まで含む水の惑星の保全活動でもある。
消費者目線で普通種の生活史を明らかにすることは、アクアマリンの使命だ。アクアマリンはこれからもメヒカリサミットを通じて持続可能性・サステイナビリテイを消費者に伝えるメッセンジャーであり続けたい。

販売される鮮魚。 水産資源の研究も、水族館の使命の一つである。 販売される鮮魚。 水産資源の研究も、水族館の使命の一つである。