館長からのメッセージ

動物園と水族館のありかた3・・・漁業と水族館のとりくみ

鯨は万葉の時代から勇魚(いさな)と詠まれ、わが国では津津浦浦で捕鯨が行われおり、捕鯨文化が定着していました。また鯨の魂をなぐさめる鯨大明神の碑が建てられています。戦後の水産立国の時代には南氷洋まで捕鯨船団が出漁しました。1948年に鯨類の持続的な利用と保全をめざした国際捕鯨取締条約が発効し、わが国は1951年に批准しました。しかし、反捕鯨国の精力の増大により商業捕鯨全面禁止決議(1986年・モラトリアム)なされ、以来、日本は細々と調査捕鯨を継続してきました。IWC国際補鯨委員会は加盟84カ国(2009年1月現在)。かつての鯨油分配会議の構成国であるので捕鯨とは無縁な国々が多く含まれます。現在IWCでは捕鯨国、反捕鯨国双方とも4分の3の多数を得られる状態になく、日本の捕鯨再開の提案にはいつも否決されてきましたが、近年賛否が拮抗してきたようです。鯨類も海洋生態系の一員であるから、他の水産物同様に科学的に議論されるべきであるが、反捕鯨国の一部や反捕鯨団体は多分に感情的であり、原理主義的でもあります。

日本の海洋調査は、クジラ類35種(80余種中)が年間3億~5億トンのサカナを食べていると推定しています。これに対し人間の獲る水産物は年間1億トンを下回ります。海洋生物資源は適正に管理することによって永久的に利用できるはずです。海洋生態系の一員である哺乳類クジラだけを保護するのは科学的ではありません。日本の科学的調査によれば多くの種の資源量は十分に回復しているとしています。「鯨あらわる~よみがえる鯨文化」はアクアマリンふくしまが総力をあげて取り組んだ企画でした。クジラを食べることがいつの間にか野蛮な行為だといわれるようになりましたが、動物愛護の感情論そのものです。海洋資源の一つとして持続可能な利用をはかるべきです。クジラの利用を知らない世代ばかりになると捕鯨の技術や鯨文化も忘れ去られてしまいます。毎年IWC総会開催時には鯨汁メニューによって世論を喚起しています。

海洋からの蛋白源を持続的に確保することは、人類の生き残り策でもあります。四囲海洋のわが国は水産立国の歴史と文化をもち、蓄積された漁業資源の研究成果や淡海水養殖のノウハウは世界の途上国に移転されてきました。海洋の生態系において鯨類も海洋資源として利用の対象となるはずですが、捕鯨モラトリアム(1986)以来、商業捕鯨が禁止されています。我が国は、調査捕鯨を継続し、鯨類も重要な水産資源として海外に数値的資源管理をアピールしてきました。つまり、鯨類の資源量を科学的に調査することによって、持続的な鯨類の資源管理が可能であるとしています。1982年に「国連海洋法条約」発議され、排他的経済水域は200海里以内とすることが決められました。排他的.経済水域200海里の沿岸漁業においても、河川や沿岸の環境を恢復し、魚種ごとに適正な資源管理を行えば理論的には持続的な蛋白源の確保が可能です。全国津津浦々の水族館が水産試験機関や漁業組合と連携して、地元の水産情報を消費者でもある観覧者に提供し、海洋資源の持続的利用のありかたを訴えることは水族館の大きな課題です。

いわき市小名浜漁協ビルに描かれた「いわき七浜捕鯨絵巻」 いわき市小名浜漁協ビルに描かれた「いわき七浜捕鯨絵巻」

(公財)ふくしま海洋科学館 理事長兼館長 安部義孝