館長からのメッセージ

メヒカリサミット

ここ、福島県いわき市小名浜漁港の壮大な魚市場の建物は荒れ果て、屋根には雑草が生えている。過去の栄光と水産行政の無策を物語っているかのようだ。

小名浜のサンマの水揚げ 小名浜のサンマの水揚げ

隣接する埠頭にウオーターフロント再開発計画で2000年にふくしま海洋科学館・アクアマリンふくしま(以下アクアマリン)が開館した。
アクアマリンは、「ショーがない環境水族館」を看板にしている。開館以来、インドネシアとアフリカのシーラカンスの調査に取り組んできた。
また、サンマのような水産重要種の生態解明に取り組み、常設展示に成功している。
自然との共存、持続可能性・サステイナビリテイを教育普及活動の柱にしている。今回は、この活動の一環として毎春、回を重ねている「メヒカリサミット」を話題にしよう。

いわき市が2001年、水産振興策として市の魚を制定するために、漁業組合関係者、水産試験場、消費者を代表する委員からなる選定委員会を設けたことが契機になった。水族館館長の筆者が選考委員長に任命された。
委員会は、漁協を含む生産者委員と主婦や料理研究家など消費者委員の間で議論がかみ合わなかった。金額の大きいカツオやサンマ、アンコウなどが生産者側に支持された。水産試験場は生産者側に肩入れせざるをえない立場だった。
しかし、カツオは土佐、サンマは気仙沼(当時)、アンコウは常磐がすでにブランド化していた。消費者側委員には安くておいしいメヒカリが支持された。

メヒカリは地方名、和名マルアオメエソ、英名はグリーンアイ、15㎝ばかりの深海性のハダカイワシ目の小魚で太平洋岸の九州からいわき沖までの各地の大陸棚に生息するが、地元消費の雑魚にしかすぎなかった。大きな目が緑色に光る。議論に終止符を打ったのは市民アンケートだった。メヒカリがカツオやヤナギムシガレイを引き離して廉価でおいしいと支持された。2001年10月にいわき市はメヒカリを市の魚に条例制定した。

水槽の中のマルアオメエソ(メヒカリ) 水槽の中のマルアオメエソ(メヒカリ)

メヒカリをいわき市の魚に制定した意義は、消費者不在の感があった水産行政のヒットであった。
庶民の魚が市のシンボルとなった。メヒカリはその分類も生態も謎の多い魚である。いわき市はメヒカリの生態調査研究を2年にわたり水産試験場ではなくアクアマリンふくしまに委託した。アクアマリンふくしまは、大学や水産試験場と協同して研究に取り組んだ。
研究報告会は2005年3月に第一回「メヒカリサミット」として開催された。
メヒカリの栄養学的分析も付け加わった。小名浜漁協女性部による、メヒカリの空揚げ付きであるから、地元公民館に多くの聴衆が集まった。 サミットは毎年回を重ね、今年は第四回目の開催になる。メヒカリのふ化稚魚は、推定される東シナ海の産卵場から、黒潮に乗って浮遊しつつ北上する。
九州、駿河湾、いわき沖に着底するまで鱗に刻まれた日輪が距離に比例して増加することなどが明らかになった。メヒカリの全生活史解明は未だに至ってはいない。
しかし、すでに水産物としてはブランド化された。めひかりの空揚げはいわきはもとより、東京の居酒屋でも、つまみの人気メニューになっている。
アンコウも緑目であり幼魚期の生活史が明らかでない。幼魚が変態しつつ黒潮分流に流され常磐いわき沖に着底して成長することはアオメエソと共通である。
小名浜漁協女性部がアンコウの吊るし切りを披露し、一同アンコウ汁に舌鼓を打ったものだ。水産物の消費者行政が欠落していたようである。
アクアマリンふくしまはメヒカリサミットによって、生産者と研究者と消費者の仲立ちとなって、持続可能性サ・ステイナビリテイの意味を消費者に伝えるメッセンジャーでありたい。

アクアマリンふくしま 館長 安部義孝