館長からのメッセージ

動物園、水族館は「メナジェリー学校」から卒業しなければならない

最近レッサーパンダがある動物園で立ち上がったという、おかしな「事件」が起こり、メディアを賑やかせた。それから日本の動物園のレッサーパンダは、我も我もと立ち上がった。
動物園側には、野生の動物を擬人化しがちであるところに問題があった。
他方、メディア側はニュースを発信する前に、科学的なチェックをしなかった。
レッサーパンダは、機能的に立ち上がることができる動物である。

動物園は、珍奇な動物を収集展示するメナジェリー、見せ物小屋として発祥した。
水族館は、動物園の園内施設として発達し、ガラスの窓を通して、やはり珍奇な水生生物を展示してきた。檻もガラス窓も、珍奇な動物を間近に見たいという人々の欲望をみたしてくれた。
この「事件」は、この国の動物園や水族館を運営する側も、
観衆の側もまだメナジェリーを引きずっていることを象徴しているようである。

国際動物園長連盟、IUDZGはヨーロッパの動物園長の交流の場として、1946年に組織された。
やがて、動物愛護運動の高まりの中で、その組織を国際的に
強化する必要に迫られ、1993年には世界動物園機構WZOを副称し、2000年には水族館も看板にとりこんだ世界動物園水族館協会、WAZAと改称した。
今日、WAZAは、世界の動物園と水族館の施設会員、地域の協会会員のネットワークを強化しつつある。

WAZAは、その活動規範として「世界動物園保全戦略」を編纂し、独自の動物の福祉に関する規則と倫理要綱を整備した。WAZAのメンバー動物園と水族館は、飼育下動物の環境改善、絶滅危惧種の繁殖、域内保全活動、保全教育の使命を帯びている。これは、動物園、水族館の生き残り戦略でもあった。2004年現在、238の施設と26の地域の協会がこの国際的組織のメンバーである。メンバーは、年々、増加傾向にある。

一方、わが国のWAZAメンバーは、動物園5園と水族館2館、わずか7施設であり、ここのところ数字は変わらない。日本の動物園や水族館は、国際的な野生生物保護活動にも、国際会議への参加にもむしろ消極的である。

わが国は、300年にわたるヨーロッパの「大博物館時代」の歴史を欠いているためであるとみているが、運営側も利用者側も大勢は動物園と水族館は、観光または娯楽の目的で存在する社会資本であると考えているふしがある。
そのため、動物園や水族館の上部組織は、時に公園緑地部門だったり、観光や企業局であったりする。教育または文化部門の下で運営される施設は、むしろ少数派である。
さらに、園館長は地方自治組織の中でしばしば異動させられるので、国内会議でさえ顔が見えない。また、あて職であったりする。管理運営する側に哲学がないから、大衆にこびる出し物を強調する傾向がある。これでは、環境保全に関する基本的な問題に対処できないし、国際化の流れに対処するどころではない。
この分野でも、日本はできるだけ鎖国の安眠を妨げられたくないようである。

世界動物園保全戦略で要請されているように、公共の動物園、水族館では、今こそ本来の姿に変わらなければならない時である。世界の動物園と水族館の利用者数は6億人と推定される。
(社)日本動物園水族館協会は、2005年4月現在、動物園92、水族館70.計162の会員で構成される。この施設数は先進諸国中でも著しく多い。年間の利用者数は6千万から7千万人に達する。このような集客力のある社会資本は無いから、単に娯楽施設としての利用にとどまるのは実にもったいない。
子供たちが「自然への扉」を開き、そこでの体験を通して学ぶ。動物園と水族館は体験学習の場として充実させなければならない。それに加えて、科学的に適正な情報を送ることができる施設として充実させなければならない。環境に優しい次世代を育てることを目指さなければならない。様々な教育活動を通して、動物園と水族館の新しい社会的地位が利用者によって支持されるであろう。
そのためには、とりもなおさず、動物園、水族館はメナジェリーの足かせから脱却しなければならない。

アクアマリンふくしま 館長 安部義孝