館長からのメッセージ

ノンカリスマ

非カリスマにスポットカリスマ種、それはジャイアントパンダであり、トキ(学名ニッポニア・ニッポン)やニホンコウノトリのような絶滅危惧種であり、ジュゴンであり、アマゾンの怪魚である。

動物園はメナジェリー(見世物小屋)から「生きた博物館」の時代を通じてカリスマ種の蒐集に執着してきた。動物園から水族館が独立するようになって、水辺の生態的展示と、商業的なパフォーマンスを重視する水族館の二つの流れができてきた。我国では、歴史的に「生きた博物館」時代をほとんど経験していないため、イルカやアシカのショー、ラッコ、アマゾンの怪魚など、ショーとメナジェリーの奇妙な同居展示が定着してきた。それは観覧者の願望でもあった。

今日、自然志向の人々がさらに高度な自然体験を動物園や水族館に期待するようになった。アクアマリンふくしまは、それに応えた施設として、化石と生きた化石を対比した生物進化から、植物も含む生息環境をつくりだした生態系展示、人と自然の関係をふりかえる海洋文化展示によって展示を構成している。それは「海を通して人と地球の未来を考える」理念の実践でもある。

目玉展示は何ですかとよく質問される。これには、目玉(カリスマ種)が無いところが特色ですと応えることにしている。絶滅が危惧されるカリスマ種(動物園動物のほとんどがそれだ)の保全活動の傘によって、非カリスマ種の保全がなされる。これが動物園や水族館の一般的な保全思想である。

しかし、超カリスマ種の保全の傘だけで、非カリスマ種の生息地の環境がよくなるであろうか。私は決してカリスマを否定しているわけではないが、理論的には逆である。非カリスマ種の保全があってはじめてカリスマ種の生存が可能なのである。

アクアマリンふくしまでは従来飼育が困難とされてきた非カリスマ種に取り組んでいる。サンマのような普通種をとりあげ研究し、展示に結びつけ人々の注目を集めた。普通種で人々を惹きつけ環境問題を考える契機とする。非カリスマ種、Non-Charismatic Speciesに注目すべきだ。

2000年モナコ海洋博物館で開催された第5回世界水族館会議で提案した。いずれ世界に普及する考え方であると信ずる。2001年の6月、水族館に隣接して水生生物保全センター(Conservation of Aqua Life, CAL)が竣工した。ここは、非カリスマ種の展示開発の場である。アクアマリンふくしまはCALの完成ではじめて、羽が生えそろって巣立ちできる水族館になったと考えている。