最新の生き物情報

サンマ共同研究に初の成果!サンマのゲノム情報についての論文公表

アクアマリンふくしまは2022年より外部研究機関と本格的にサンマについて共同研究をに取り組んでいます。このことに関して初の成果となる論文が発表されましたので、お知らせします。

掲載雑誌
国際科学雑誌「DNA Research」
日本時間202437日午後9

■掲載論文
Chromosomal DNA sequences of the Pacific saury genome: versatile resources for fishery
science and comparative biology
(サンマゲノムの染色体規模のDNA配列:水産科学と比較生物学のための有用リソース)

■著者
Mana Sato, Kazuya Fukuda, Mitsutaka Kadota, Hatsune Makino-Itou, Kaori Tatsumi,
Shinya Yamauchi, Shigehiro Kuraku
(佐藤茉菜、福田和也、門田満隆、伊藤初音、辰見香織、山内信弥、工樂樹洋)

■概要
「秋の味覚」として日本人に古くから親しまれてきたサンマは、近年、漁獲量が減少し、価格が高騰したことで大きな話題となっています。これまで、サンマは漁獲量が比較的安定しており、魚価も安かったことから、養殖技術は確立されてきませんでした。このような背景から、身近な魚であるにもかかわらず、サンマの生物学的研究はあまりなされていませんでした。さらに、分子生物学研究の基本となる全ゲノム配列などDNA情報が整備されていなかったことも、サンマについての研究が進んでいない大きな要因です。

情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所分子生命史研究室の工樂樹洋教授、北里大学の福田和也助教、理化学研究所生命機能科学研究センターの門田満隆技師、アクアマリンふくしまの山内信弥上席技師らからなる研究チームは、サンマの全ゲノム情報を読み取り、多様な分子生物学研究のための情報基盤を整えました。

本研究では、世界で唯一サンマの継代飼育および展示を成功させた水族館であるアクアマリンふくしまにて陸上水槽内で人工ふ化し養成したサンマ成魚を用いました。まず、1分子リアルタイム(SMRT)塩基読み取り技術による高精度な長鎖配列(ロングリード)解析により、このサンマのDNA断片情報を取得しました。そして、染色体立体配座捕捉法(Hi-C)により、数千万塩基にもなる染色体のDNA配列を再構築しました。今後、他生物と配列を比較することで、サンマの分子生物学的特徴が明らかになると期待されます  。

2022年5月に着手した本研究は、高い専門性をもつ技術者や研究者が、分野横断的に協力することで、短期間で成果を出すことができました。近年の漁獲量減少と価格高騰により大きな注目を浴びているサンマについて、その学術研究を速やかに推進するために、研究論文の発表に先立って、得られたゲノム情報は数か月前からインターネット上で広く公開しています。これに付随した論文は、日本で育まれてきた学術雑誌「DNA Research」に 2024 年3月7日の午後9時(日本時間)に掲載されました。

サンマの展示と共同研究の経緯

アクアマリンふくしまのメインの展示テーマは、福島県沖の特徴である親潮と黒潮がであう「潮目の海」です。「ふくしまの海」コーナーの展示には、親潮海流と黒潮海流を行き来する代表的な魚としてサンマが選ばれました。それまで水族館においてサンマは短期的な展示にとどまり長期飼育が難しい魚とされてきたことも選ばれた理由の一つです。挑戦的な意味も含まれたサンマ展示の試みは、卵や稚魚から育てることにより実現しました。その成功の過程では、世界で初めての水槽内繁殖も実現しています。そして2000年オープンよりサンマの周年展示を継続してきました。しかし、これまで20年以上サンマの展示を行ってきたにもかかわらず当館独自のサンマの研究は数件にとどまっていたのが現状でした。これは労力が大きいサンマの飼育展示や繁殖を行いながら研究を並行して行うことの難しさがあったためです。そこで2022年より外部研究機関と本格的に共同研究を始めることにしました。これまでと違い遺伝学、生理生態学、発生学など多方面の専門家が加わることにより、高度な研究成果が得られる可能性があります。現在進行中ですが共同研究者からは、サンマの卵から成魚まですべての生活史を網羅できる唯一の施設であることが高い評価を受けています。今後、研究成果が出次第、随時発信をしていきたいと思います。そして新しい発見を基に、より深くサンマについて情報発信できる施設として歩んでいきたいと考えています。

サンマについて

  • サンマ
  • サンマ科
  • 学名Cololabis saira
  • 英名Pacific saury

サンマは外洋表層性で、日本近海に生息するものは、夏季に北上し冬季に南下する季節回遊を行うことが知られています。寿命は2年程度で、産卵期になると流れ藻などの漂流物に卵を産み付けます。サンマは神経質で鱗がはがれやすく体表が弱いため、成魚を生きたまま水族館に持ち帰るのは困難です。アクアマリンふくしまでは稚魚や卵から採集して育てることによって長期展示に成功しました。

アクアマリンふくしま生まれのサンマを展示中

現在はアクアマリンふくしまで生まれたサンマを展示しています。継代繁殖を重ねて今回で6世代目となります。

展示開始日:2024年1月28日(日)
展示場所:アクアマリンふくしま 本館2階 「ふくしまの海~大陸棚への道~」コーナー
展示個体数:約800個体
全長:約15㎝

問い合わせ

<研究内容のうち、DNA情報や遺伝子の進化に関すること>
国立遺伝学研究所 ゲノム・進化研究系 分子生命史研究室
教授 工樂 樹洋 (くらく しげひろ)

<研究内容のうち、サンマの養殖の可能性に関すること>
北里大学 海洋生命科学部 増殖生物学講座 水族増殖学研究室
助教 福田 和也 (ふくだ かずや)

 

論文の詳細はこちら(外部サイト)