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アオビクニンの繁殖行動の解明に成功!

深海魚「アオビクニン」の繁殖行動についての論文が、海洋生物全般を扱う国際学術雑誌に掲載されました。深海魚も繁殖のために様々な作戦を持つことが明らかになっています。

アオビクニン

アオビクニン

アオビクニンの卵

アオビクニンの卵

地球の7割を占める海には多種多様な生物が生息しており、このうち魚類は潮だまりなどの浅海から水深8000mを超える超深海にまで生息しています。これまでダイビングの普及等によって浅い海に生息する魚類の繁殖に関しては、様々な繁殖形態(ペア産卵、複数による集団産卵、状況に合わせて性別を変える性転換など)が明らかになってきました。しかし、深海魚については、潜水艇やROV(自走式水中カメラ)を用いて生きている姿を映像に記録するだけでも困難で、いつどこで行われているのかわからない繁殖の瞬間に出会える機会はほとんどなく、その詳細は今も謎に包まれています。

今回、当館の水槽内で深海魚である「アオビクニン」の飼育研究を進める上で、水槽内の行動を映像に記録し、広島大学、北里大学と共同して映像を解析し研究することで、オス同士の闘争や求愛行動、メスの産卵といったアオビクニンの知られざる繁殖行動を解明することができました。
今後も通常見ることの出来ない深海生物について、生きている姿を観察できる水族館の特徴を活かし、生態解明につながる研究を続けていきます。

アオビクニンは、2階「ふくしまの海~大陸棚への道~」で展示しています。

公表論文

論文誌名

Marine Biology
Reproductive behavior and alternative reproductive strategy in the deep-sea snailfish, Careproctus pellucidus

↑ページの下の方に動画が掲載されています

論文公表日

2022年2月28日(月)

今回観察されたアオビクニンの繁殖行動

アオビクニン産卵行動

Mori et al ,(2022)より改変

  • オスは産卵場所を見つけると胸鰭で形を探る
  • オスは産卵場所になわばりを作ると、周囲に存在を知らせるかのように身体を小刻みに震わせる
  • なわばりオスは接近するメスに対して、身体を更に震わせて求愛する
  • メスが産卵すると、オスは胸鰭で卵を探し、胸鰭が卵に触れると放精して卵を受精させる
→ 深海では視覚に頼れないため、胸鰭が触れないと卵の場所がわからないと思われる

オス同士の闘争

Mori et al ,(2022)より改変

 

  • なわばりオスは、産卵場所に近づいた非なわばりオスにも近づいて身体を震わせる
  • 非なわばりオスが、身体を震わせた瞬間にオス同士の闘争が始まり、負けたオスはなわばりを離れる
→ 身体を震わせる行動はオスにしか見られない

スニーキング *深海魚では世界初確認‼

Mori et al ,(2022)より改変

  • 非なわばりオス(スニーカー)は、身体を震わせずメスと同じ行動をして別のオスのなわばりに近づく
  • メスのふりをすることで、なわばりオスをだまして、なわばりに居座る
  • そしてメスの産卵の直後、なわばりオスの放精に割り込み、繁殖に参加する
→ なわばりを持たずに産卵に割り込む作戦を持つオスがいる
スニーキングとは

なわばりを持たないオス(スニーカー)が、なわばりオスとメスの繁殖に割り込み、自分の子孫を残す繁殖戦略のこと。スニーキングとは、こっそりぬすむという意味です。
このような行動はサケ科魚類などで知られ、サケの場合スニーカーはメスに似た色彩をしていて、なわばりオスをだまします。

アオビクニン

  • アオビクニン
  • カサゴ目クサウオ科コンニャクウオ属
  • 学名Careproctus pellucidus
  • 英名Pellucid Snailfish

北海道~茨城県の太平洋沖の水深145-300mに生息しています。体は桃色で寒天質の柔らかい肉質をしています。食用には利用されず、生きて採集されることはほとんどないため、水族館での展示例もほとんどありません。
クサウオ科魚類は世界に430種以上、そのほとんどが深海(200m以深)に生息し、最大8000mを超える水深でもマリアナスネイルフィッシュというシンカイクサウオ属の種が見つかっています。