謎多い「サンマが育つ過程」を詳細に解明!論文公表
アクアマリンふくしまは2022年より外部研究機関と本格的にサンマについて共同研究に取り組んでいます。
今回、関西大学化学生命工学部、国立遺伝学研究所との共同研究により、論文が公表されましたのでお知らせします。
論文について
サンマの受精卵から稚魚までの初期発生過程を詳細に観察し、その特徴的な発生スケジュールを明らかにしました。本研究は受精直後からの細胞の変化や、さまざまな臓器の形成を観察し、その特徴を他の魚種と比較した初めての報告となります。
本件のポイント
- サンマが受精卵から稚魚になる過程を、詳しく観察することに成功
- サンマでは、原腸形成の途中から体節形成が始まるという特徴を発見
- 魚類の形態の多様性や、環境変化と水産資源の減少との関係解明につながると期待

■掲載雑誌
米国の国際学術誌『Developmental Dynamics』
2026年9月22日
■掲載論文
Embryonic and larval development of the Pacific saury Cololabis saira: Distinctive characteristics of a rapidly growing beloniform fish. Developmental Dynamics.
■著者
Rie Kusakabe, Sinya Yamauchi and Shigehiro Kuraku.
(関西大学化学生命工学部 日下部りえ、アクアマリンふくしま 山内信弥、国立遺伝学研究所 工樂樹洋)
関西大学のプレスリリースはこちら
(外部サイト)
背景
サンマは日本人にとって身近な魚ですが、近年漁獲量の減少が懸念されています。また、その初期発生については、メダカやゼブラフィッシュなどのモデル魚類と比べて研究が進んでいませんでした。一方、サンマは成長が速く、孵化後わずか数か月で大きく成長するという特徴を持っています。こうした「速い成長」がどのような発生過程と関係しているのかを理解するためには、まず、受精卵から体が形づくられていく過程を知る必要があります。
研究手法
サンマは非常に繊細な魚で、光や振動などの刺激に弱く、人工的な飼育は世界でもアクアマリンふくしまでしか実現していません。当館では、水槽の形状や大きさ、餌の種類や給餌の頻度、明るさや水温など、あらゆる条件を工夫して、卵から孵化した個体を成魚に育てることに成功しました。また、この成魚たちに卵を産ませて、次の世代を育てる「水槽内繁殖」を軌道に乗せています。
本研究ではこのような飼育体制を活かし、サンマの受精卵を人工受精によって得るほか、飼育下で産卵された卵も用いて、受精後の胚を経時的に観察しました。そして卵割、原腸形成、体節形成、尾部の形成、眼や耳胞、心臓などの器官形成、色素細胞の形成、孵化に至るまでの形態変化を記録しました。また、孵化後の幼生についても成長や形態の変化を追跡しました。さらに、得られた発生段階をメダカやゼブラフィッシュなど、これまで発生研究で広く用いられてきた魚類と比較することで、サンマに特徴的な発生スケジュールを明らかにしました。
研究成果
本研究により、これまで詳しく知られていなかった、サンマの受精卵から孵化後の稚魚までの発生過程を、連続した発生段階として詳細に記録することができました。特に注目されるのは、体節が形成され始める時期です。体節は、将来の脊椎や骨格筋など、体幹の基本構造をつくる重要な組織です。メダカやゼブラフィッシュなどでは、原腸形成が終わった後に体節形成が進行します。一方、サンマでは原腸形成がまだ約50%しか進んでいない段階で、体節形成が始まりました。その後も原腸形成と並行して体節数が増加していきました。また、脳や心臓、胸鰭などの器官も早い時期からつくられていくことがわかりました。
このように、サンマでは胚の体づくりが比較的早い段階から進行することが明らかになりました。一方で、最初は1個の細胞である受精卵が、2個、次に4個…と分裂していく「卵割期」の進行はメダカよりゆっくりで、サンマの初期発生は単純に「すべてが速い」わけではなく、発生過程の各段階で異なる時間的特徴を持つことがわかりました。
本研究の意義および今後への期待
サンマは日本人にとって身近な魚である一方、受精卵からスタートしてどのように育っていくのかについては、十分な研究が行われていませんでした。本研究は、サンマの初期発生を詳細に記載し、他の魚類と比較できる基礎的な知見を提供したものです。
特に、原腸形成と体節形成が重なるという特徴は、サンマを含むダツ目魚類がどのような発生プログラムを持っているのかを理解する上で重要な手がかりとなります。また、本研究で確立した発生段階の情報は、今後、サンマの成長や形態形成を遺伝子・分子レベルで研究するための貴重な基盤となります。
孵化後のサンマは非常に速く成長し、約半年で20 cmを超える大きさの成魚になります。本研究で解明された特徴的な初期発生過程と、その後の急速な成長との関係を探ることは、魚類の成育や形態の多様性への理解を進める上で、非常に興味深い課題です。
今後、サンマの発生過程で働く遺伝子や分子メカニズムを、他の魚類と比較することで、サンマが持つ独自の生態・成長特性がどのように生み出されるのかを明らかにできると考えられます。また、本研究で得られた発生学的な知見は、サンマの生活史や、気候変動がサンマに与える影響を理解するための研究基盤となります。こうした研究を通じて、資源としてのサンマの特徴をより深く理解することが、将来的にはサンマ資源の持続的な利用や安定供給につながると期待されます。
アクアマリンふくしまのサンマの展示と共同研究の経緯
アクアマリンふくしまのメインの展示テーマは、福島県沖の特徴である親潮と黒潮がであう「潮目の海」です。「ふくしまの海」コーナーの展示には、親潮海流と黒潮海流を行き来する代表的な魚としてサンマが選ばれました。それまで水族館においてサンマは短期的な展示にとどまり長期飼育が難しい魚とされてきたことも選ばれた理由の一つです。挑戦的な意味も含まれたサンマ展示の試みは、卵や稚魚から育てることにより実現しました。その成功の過程では、世界で初めての水槽内繁殖も実現しています。そして2000年オープンよりサンマの周年展示を継続してきました。しかし、これまで20年以上サンマの展示を行ってきたにもかかわらず当館独自のサンマの研究は数件にとどまっていたのが現状でした。これは労力が大きいサンマの飼育展示や繁殖を行いながら研究を並行して行うことの難しさがあったためです。そこで2022年より外部研究機関と本格的に共同研究を始めることにしました。これまでと違い遺伝学、生理生態学、発生学など多方面の専門家が加わることにより、高度な研究成果が得られる可能性があります。現在進行中ですが共同研究者からは、サンマの卵から成魚まですべての生活史を網羅できる唯一の施設であることが高い評価を受けています。今後、研究成果が出次第、随時発信をしていきたいと思います。そして新しい発見を基に、より深くサンマについて情報発信できる施設として歩んでいきたいと考えています。
サンマについて

- サンマ
- サンマ科
- Cololabis saira
- Pacific saury
サンマは外洋表層性で、日本近海に生息するものは、夏季に北上し冬季に南下する季節回遊を行うことが知られています。寿命は2年程度で、産卵期になると流れ藻などの漂流物に卵を産み付けます。サンマは神経質で鱗がはがれやすく体表が弱いため、成魚を生きたまま水族館に持ち帰るのは困難です。アクアマリンふくしまでは稚魚や卵から採集して育てることによって長期展示に成功しました。





