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シーラカンス研究に関する論文発表

2017年に北九州市立自然史・歴史博物館と共同で実施した国際シーラカンスシンポジウムの成果としてアクアマリンふくしま職員によるシーラカンス研究に関する論文が掲載されました。

■掲載雑誌
北九州市立自然史・歴史博物館研究報告A類自然史 第17号 シーラカンス特集号
■発刊日
平成31年3月31日

*国際シーラカンスシンポジウムは、平成27年度船の科学館「海の学びミュージアムサポート」による助成を受けました。
*掲載している写真および文章の無断転載・無断使用を禁止します。

発表研究について

Field surveys on the Indonesian coelacanth, Latimeria menadoensis using remotely operated vehicles from 2005 to 2015

(和文タイトル)2005年から2015年にかけての無人潜水機(ROV)を使ったインドネシアシーラカンスLatimeria menadoensis の調査

【著者 】Masamitsu Iwata(岩田雅光)1, Yoshitaka Yabumoto(籔本美孝)2, Toshiro Saruwatari(猿渡敏郎)3,4, Shinya Yamauchi(山内信弥)1, Kenichi Fujii(藤井健一)1, Rintaro Ishii(石井輪太郎)1, Toshiaki Mori(森俊彰)1, Fresly D. Hukom, Dirhamsyah5, Teguh Peristiwady6, Augy Syahailatua7, Kawilarang W. A. Masengi8, Ixchel F.mandagi8, Fransisco Pangalila8, and Yoshitaka Abe(安部義孝)1
*1アクアマリンふくしま  2北九州市立自然史・歴史博物館  3東京大学大気海洋研究所  4成蹊学園サステナビリティ教育研究センター  5インドネシア科学院海洋研究所  6インドネシア科学院ビトゥン海洋生態保全センター  7インドネシア科学院深海研究所  8サムラトランギ大学水産学部

研究内容

2005年から実施しているROV調査によって観察されたインドネシアシーラカンスについて、遭遇した水深、水温、観察時間、場所などについて検討を行った。

研究の意義

これまでのインドネシアでのシーラカンスの生息環境を包括的に報告した。

  1. インドネシアでは、北スラウェシ州北部とパプア州ビアック島で1,173回の水中調査を行い、インドネシアシーラカンスに30回遭遇し、30個体を観察できた。 
  2. 観察されたインドネシアシーラカンスは最大137cmで、大きなものでは2mを越えるアフリカのシーラカンスよりも小型であった。
  3. アフリカのシーラカンスは夜行性で日中は洞窟に隠れているとされているが、インドネシアシーラカンスは洞窟以外でも岩陰や崖の脇などの露出した場所でも観察され、嫌光性は低いと考えられる。
  4. 生息域の水温は12.5–21.5℃と幅が広く急激な温度変化が生じるが、変化を避けるために移動することはない。

    ROV(自走式水中カメラ)

Observation of the first juvenile Indonesian coelacanth, Latimeria menadoensis from Indonesian waters with comparison to embryos of Latimeria chalumnae

(和文タイトル)インドネシアシーラカンスLatimeria menadoensis 初の幼魚の観察とLatimeria chalumnae 胎子との比較

【著者 】Masamitsu Iwata(岩田雅光)1, Yoshitaka Yabumoto(籔本美孝)2, Toshiro Saruwatari(猿渡敏郎)3,4, Shinya Yamauchi(山内信弥)1, Kenichi Fujii(藤井健一)1, Rintaro Ishii(石井輪太郎)1, Toshiaki Mori(森俊彰)1, Fresly D. Hukom, Dirhamsyah5, Teguh Peristiwady6, Augy Syahailatua7, Kawilarang W.A. Masengi8, Ixchel F.mandagi8, Fransisco Pangalila8, and Yoshitaka Abe(安部義孝)1
*1アクアマリンふくしま 2北九州市立自然史・歴史博物館 3東京大学大気海洋研究所 4成蹊学園サステナビリティ教育研究センター 5インドネシア科学院海洋研究所 6インドネシア科学院ビトゥン海洋生態保全センター 7インドネシア科学院深海研究所 8サムラトランギ大学水産学部

研究内容

2009年に発見したインドネシアシーラカンスの幼魚の形態について、アフリカのシーラカンスの胎子との比較を行い、インドネシアシーラカンスの幼魚の特徴について研究した。

研究の意義

アフリカとインドネシアの2種のシーラカンスは形態が非常に似ており、成体での明確な違いはほとんど見つかっていない。しかし、幼魚の形態を比較した結果、インドネシアシーラカンスは尾鰭がアフリカのシーラカンスに比較して大きいことなど、2種の成長様式が異なる可能性が示された。

A new Triassic coelacanth, Whiteia uyenoteruyai (Sarcopterygii, Actinistia) from Madagascar and paleobiogeography of the family Whiteiidae

(和文タイトル)マダガスカル産三畳紀のシーラカンス新種Whiteia uyenoteruyai(肉鰭亜綱、シーラカンス下綱)とワイテイア科の古生物地理

【著者 】Yoshitaka Yabumoto(籔本美孝)1, Paulo M. Brito2, Masamitsu Iwata(岩田雅光)3, Yoshitaka Abe(安部義孝)3 
*1北九州市立自然史・歴史博物館 2リオデジャネイロ州立大学 3アクアマリンふくしま

アクアマリンふくしま1階「海・生命の進化」で展示している化石

研究内容

アクアマリンふくしまに展示されているシーラカンスの化石が新種であることが判明し、ワイテイア ウエノテルヤイと命名された。ウエノテルヤイは魚類学、古生物学ならびにシーラカンスの研究に貢献された上野輝彌博士に献名したもの。

研究の意義

今回の発見によって、ワイテイア属のシーラカンスは6種となり、中生代の海のシーラカンスの中で最も多様性の高いグループであったことが判明し、ワイテイア科シーラカンスの次のような進化史が考えられる。 

  1. ワイテイア科シーラカンスはパンゲア超大陸南岸の浅瀬に起源があり、ワイテイア属が最も原始的であり、約2億5200万年前~2億4700万年前の三畳紀前期のテチス海に広く分布していたと考えられる。 
  2. 同じ時代にパンゲア超大陸北部沿岸に他のワイテイア科シーラカンス(エクセリア(Axelia)とウィマニア(Wimania))も分化していた。 
  3. 約2億4200万年前~2億700万年前の三畳紀中期から後期にはパンゲア超大陸西部で分化した新たな種(ワイテイア オオイシイ:Whiteia oishii)や他のグループ(グショウシーラカンスス:Guxhoucoelacanthus)も出現した。
  4. 約1億9900万年前~1億9100万年前のジュラ紀にはパンゲア超大陸北部沿岸のグループからパンゲア大陸の西岸を経由し、パンサラッサ海に新たなグループ(アタカマイア(Atacamaia))が出現した。

A detailed morphological measurement of the seventh specimen of the Indonesian coelacanth, Latimeria menadoensis, with a compilation of current morphological data of the species

(和文タイトル)インドネシアシーラカンスLatimeria menadoensisの7個体目となる標本の外部形態の精密計測ならびに本種の既存標本の形態に関する情報の集約

【著者 】Toshiro Saruwatari(猿渡敏郎)1,2, Masamitsu Iwata(岩田雅光)3, Yoshitaka Yabuoto(籔本美孝)4, Fresley D. Hukom, Teguh Persistiwady 5, Yoshitaka Abe(安部義孝)3
*1東京大学大気海洋研究所 2成蹊学園サステナビリティ教育研究センター 3アクアマリンふくしま 4北九州市立自然史・歴史博物館 5インドネシア科学院ビトゥン海洋生態保全センター

研究内容

アクアマリンふくしまで展示中のインドネシアシーラカンスは、本種の7個体目の標本である。現生シーラカンス2種を見分ける分類形質を発見し、分類を確立するために外部形態の精密な計測を行った。合計517形質。計測結果と、インドネシアシーラカンスに関する既往の知見をまとめた。

研究の意義

インドネシアシーラカンスとアフリカのシーラカンスは形態が非常に似ている。この2種は、DNAの比較により別種とされているが、形態から見分けることは困難である。2種を形態で見分ける方法の確立は、現生シーラカンス研究の礎である。また、時間とお金のかかるDNA分析に頼らずに形態から2種を見分けることが可能となれば、シーラカンスの違法商取引を取り締まるうえでも有益である。その第一歩を踏み出した。