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シーラカンス胸鰭筋肉に人間の上の腕の筋肉の原型を発見

アクアマリンふくしまにおいて解剖されたシーラカンスの胸鰭から、人間の腕の4つの一関節筋、4つの二関節をまたがる二関節筋の原型が発見され、その成果がアメリカ解剖学会誌Anatomical Recordに掲載されました。

シーラカンス

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論文タイトル

The Pectoral Fin Muscles of the Coelacanth Latimeria chalumnae; Functional and Evolutionary Implications for the Fin-to-Limb Transition and Subsequent Evolution of Tetrapods.
(シーラカンスLatimeria chalumnaeの胸鰭筋肉:鰭から四肢の移行とその後の四肢動物への進化の機能・進化学的意味)

発表雑誌

アメリカ解剖学会誌Anatomical Record
2016年7月22日付けでオンライン先行発表
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ar.23392/abstract

著 者

ミヤケ ツトム  慶應義塾大学大学院理工学研究科 東京慈恵会医科大学解剖学講座
熊本 水頼  京都大学
岩田 雅光  ふくしま海洋科学館(アクアマリンふくしま)
佐藤 隆一  金沢工業大学生体機構制御技術研究所
岡部 正隆  東京慈恵会医科大学解剖学講座
鯉江 洋  日本大学生物資源科学部獣医学科
熊井 規  株式会社計算力学研究センター
藤井 健一  ふくしま海洋科学館(アクアマリンふくしま)
松崎 浩二  ふくしま海洋科学館(アクアマリンふくしま)
中村 千穂  ふくしま海洋科学館(アクアマリンふくしま)
山内 信弥  ふくしま海洋科学館(アクアマリンふくしま)
吉田 光輔  ふくしま海洋科学館(アクアマリンふくしま)
吉村 光太郎  ふくしま海洋科学館(アクアマリンふくしま)
薦田 章  ふくしま海洋科学館(アクアマリンふくしま)
上野 輝彌  国立科学博物館
安部 義孝  ふくしま海洋科学館(アクアマリンふくしま)

内 容

デボン紀後期(3.9億年前)から石炭紀早期(3.6億年前)にかけて、魚類の胸鰭は四肢動物の前脚へ、腹鰭は後脚へと進化し、現在の四肢動物の四本の脚ができ上がりました。四肢動物に属する人間の腕には、一関節筋と二関節筋という筋肉がありますが、これらの筋肉はお互いに助け合うことで、腕の伸び縮みや方向性を制御しています。

科学の世界では、この制御のことを協調制御と呼びます。筋肉の数は異なりますが、脚にも腕と同様に協調制御する筋肉があり、犬や猫などの四足歩行する他の四肢動物の前脚や後脚の動きも、一関節筋や二関節筋によって体の動きや姿勢などが協調制御されています。

今回、一関節筋と二関節筋の原型がシーラカンスで発見されたことで、デボン紀後期より以前の原始的な肉鰭魚類に既にこのような筋肉が備わっていた可能性が深まりました。

原生する肉鰭魚類であるシーラカンスの研究を深めることで、私たち四肢動物の形や動きがどのように進化してきたかについて、さらなる手がかりが得られるかもしれません。

注釈

肉鰭魚類は、現在生きているシーラカンスと肺魚以外、3〜4億年前シルル紀、デボン紀に生きていた魚類です。生きているシーラカンスはアフリカとインドネシアから2種類知られています。その祖先の歴史は3〜4億年前に遡り、現在生きている2種類のシーラカンスの形態は、この長い進化の歴史の中ほとんど変わっていません。

形態で特徴的なのは肉鰭です。条鰭魚類の鰭とは異なり、長い鰭は長い骨格と分厚い筋肉から構成されていて、このため肉鰭とよばれています。シーラカンスの胸鰭、腹鰭、第二背鰭は肉鰭です。骨格は、四肢動物の骨格と類似しており、鰭は人間の手脚を思わせる構造です。

3億5千年前デボン紀後期から3億8千年前石炭紀早期、肉鰭魚類が条鰭魚類とは独立に四肢動物に進化したと考えられています。それゆえ、シーラカンスの研究は、どのように肉鰭魚類が四肢動物に進化したか知る上で大変貴重なものです。 

解剖の様子

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