お掃除屋さんはエラの中? 「世界初!バショウカジキとコバンザメのふしぎな関係を解明」
水族館だからこそできたバショウカジキの生態解明への第一歩
アクアマリンふくしまでは、「潮目の海 黒潮水槽」において、外洋に生息するバショウカジキの展示に挑戦しています。
2022年の飼育期間中の継続的な行動観察にて、バショウカジキとコバンザメの共生関係を世界で初めて記録しました。
この研究が、動物行動学の国際学術誌に掲載されましたのでお知らせします。
バショウカジキのエラの中から体表へ出入りするコバンザメ(ヒシコバン)
掲載論文
「Symbiotic cleaning relationship between a sailfish (Istiophorus platypterus) and remoras(Remora osteochir)」(バショウカジキとヒシコバンのクリーニング行動共生関係)
※2025年5月28日「Journal of Ethology*」に掲載
*このジャーナルは、動物(哺乳類、昆虫、魚類など)の行動に関する研究を扱う国際的な学術誌です。
共同研究:南三陸町自然環境活用センター 阿部拓三 博士
経緯と概要
バショウカジキは、外洋を高速で泳ぎ回るため、水族館での飼育が非常に難しい魚として知られています。アクアマリンふくしまでは、開館した2000年から飼育に向けた調査・研究を重ね、2009年に「潮目の海 黒潮水槽」において初めて展示に成功しました。その後も挑戦を続け、2022年に世界最長となる84日間の飼育記録を達成しました。この期間中に、展示水槽内でバショウカジキのエラの中に隠れるコバンザメ(ヒシコバン)を発見し、行動観察を続けました。そして世界で初めて2種の共生関係を明らかにする結果を得ました。これは外洋域での動物同士の共生関係を解明するうえで極めて貴重な成果となり、その結果が動物行動学の国際学術誌に掲載されました。
※展示するバショウカジキは、未利用魚として廃棄されるものを漁師さんから提供してもらっています。
※2025年6月5日現在はバショウカジキの展示はしていません。
研究内容のポイント
この行動観察では、バショウカジキがコバンザメの遊泳に合わせて、泳ぐ速度を落とすなどの「クリーニング要求行動」を確認しました。さらに、過去の研究ではコバンザメ類の胃内容物から寄生虫が検出された事例もあり、今回の観察とあわせると、コバンザメがバショウカジキの体表に付いた寄生虫を取り除く「クリーナー」として機能することを示唆しています。また、バショウカジキが自らのエラの中にコバンザメをかくまう様子は、両種の間に明確な共生関係が成立している可能性が示されました。
これまでにも、死亡した魚類のエラの中からコバンザメの仲間が見つかった事例はありましたが、この観察では生きた状態でコバンザメが宿主のエラを出入りする様子が世界で初めて記録されました。このような行動観察は、外洋を泳ぐカジキ類では極めて困難であり、水族館の展示水槽という限定された環境だからこそ観察・記録が可能となった成果です。
バショウカジキのエラを出入りするコバンザメのイラスト
バショウカジキとコバンザメのふしぎな関係
コバンザメのお掃除行動を介した共生関係が世界で初めて明らかに!
バショウカジキとコバンザメの仲間の共生について
生物の共生
異なる生物が一緒に暮らすことを共生といいます。
共生には、双方が利益を得る相利共生、片方が利益を得る片利共生、片方が害を受ける寄生があります。
コバンザメの仲間は、頭部の吸盤で宿主(クジラやジンベエザメなど)の体表にくっ付きます。
宿主の体表にくっ付くことでコバンザメは、遊泳労力の削減、外敵からの保護、宿主の餌のおこぼれを食べる摂餌の機会などの恩恵を受けています。
一方で宿主は、コバンザメが体表に付着することにより水流抵抗の増加や皮膚の炎症を引き起こす例が報告されています。そのため双方の関係は、コバンザメの仲間だけが利益を受ける片利共生であるという考えがありました。
観察結果のポイント
ポイント①コバンザメ(ヒシコバン)のクリーニング行動を観察!
コバンザメのクリーニング行動(バショウカジキのヒレの付け根に頭を押し込む)
ポイント②バショウカジキのクリーニング要求行動※に注目!
バショウカジキはコバンザメの遊泳に合わせて泳ぐ速度を低下させ、エラ蓋を開けて出入りを容易にし、さらには背ビレを広げるという特徴的なポーズをとることが観察されました。これは、コバンザメに対して積極的に「クリーニング」を促す行動と解釈できます。
※「クリーニング要求行動」とは
クリーナーフィッシュ(例:ホンソメワケベラ)に対して掃除を要求する魚が示す行動です。
動きを止め、ヒレを広げ、口を大きく開ける行動が当てはまります。
ポイント③コバンザメのお家はエラの中!
バショウカジキのエラから出て、エラの中に必ず戻ります。その割合は、64回の観察で100%でした。
まとめ
過去の研究では、コバンザメの仲間の胃の中から寄生性のカイアシ類が検出されており、本研究の行動観察と合わせるとコバンザメが寄生虫を取り除く「クリーナー」として機能している可能性が高まります。2種の行動観察の結果は、バショウカジキとコバンザメの間に、外洋を回遊する生活スタイルに合わせた新しい共生関係の発見につながりました。
【動画】バショウカジキのエラの中から体表へ出入りするコバンザメ(ヒシコバン)
- バショウカジキ
- Istiophorus platypterus
- Indo-Pacific sailfish
全長約3m。芭蕉の葉のような大きな背びれが特徴です。この背びれは、餌となる小魚の群れを威嚇するときに使われたり、急停止や急旋回するときにパラシュートのように用いられたり、ブレーキのような役割を果たしているとも考えられています。魚食性で、上あごの骨がのびた長い吻(ふん)を魚に打ち付けたり、つついたりして餌をとります。カジキ類は世界中の温・熱帯海域外洋の表層域に分布し、日本近海では東北地方以南に6種類(バショウカジキ、フウライカジキ、マカジキ、クロカジキ、シロカジキ、メカジキ)が生息しています。