お知らせ
アクアマリンいなわしろカワセミ水族館の平澤桂、大阪公立大学の加藤雅也氏、上田昇平氏の研究グループによって、2年にわたる現地調査により、1993年以来誰も見つけることができなかった「キタホソガムシ」を再発見しました。

31年ぶりに再発見したキタホソガムシ
<発見の経緯>
当館職員が2021年に新種となるバンダイホソガムシHydrochus mitamurai Hirasawa & Yoshitomi,2021を猪苗代湖から発見し、国内ホソガムシ科は5種(ホソガムシ H. aequalis Sharp, 1884,ヤマトホソガムシ H. japonicus Sharp, 1873,チュウブホソガムシ H. chubu Balfour-Browne & Sato, 1962,バンダイホソガムシ,キタホソガムシ H. laferi Shatrovskiy, 1989) となりました。
そのうちキタホソガムシは1977年に、ゲンゴロウの大家でもあった故佐藤正孝博士が北海道サロベツ地域で8個体採集されたもの以外記録がない状況で、幻の水生昆虫となっていました。そのため、当館職員をはじめとした研究グループで、サロベツ地域において2023年6月に特別保護地域以外で調査を行いましたが、発見することができませんでした。そのため、文献調査、標本調査をしたところ1993年にサロベツ地域で採集されたホソガムシの記録があったことがわかり、2023年8月に標本を所蔵していた松井英司さんから借用し調査したころ、キタホソガムシであることが判明しました。しかし詳しい採集地は不明であったため、2024年9月は特別保護地域内の許可を得て、調査を行ったところ、31年ぶりの再発見となりました。また生息地での個体数も安定していることがわかりました。
今回そのうち許可を得た3個体のみを採集し、2個体は1977年の本種の標本が収蔵されている愛媛大学農学部昆虫学研究室に収蔵、1個体はDNA解析用に大阪公立大学に保管しました。
ホソガムシ科の生態についてこれまで詳しい情報がほとんどなく、どの種も絶滅危惧種に指定されていることから、今後は生活史の解明が急務となっています。

調査の様子
<展示>
今回再発見を記念して、キタホソガムシ(1977年佐藤正孝博士、1993年松井英司さん、2024年当館職員をはじめとした研究グループの各2個体)をはじめ、国内ホソガムシ科全5種の標本展示を致します。ホソガムシ科5種の展示は全国でも初めてとなります。
展示期間:12月1日(月)~2026年2月1日(日)
<標本の重要性>
昆虫標本は、ころして標本にすること、死骸に針をさした状態で残すことへの抵抗などもありますが、過去の分布記録や発生時期の変化を示す資料として非常に重要であり、今回1993年の松井さんの標本も当時知られていた種名で文献に記録されていたことにより、今回文献・標本調査をするにあたり本種の標本を発見することができました。改めて標本の重要性が示されました。
<展示協力>
愛媛大学農学部昆虫学研究室、松井英司氏
◆研究グループ
平澤桂 (アクアマリンいなわしろカワセミ水族館)
加藤雅也 (大阪公立大学大学院農学研究科)
上田昇平(大阪公立大学大学院農学研究科)
◆論文情報
北海道で31年ぶりに再発見されたキタホソガムシ
Rediscovery of Hydrochus laferi Shatrovskiy, 1989( Coleoptera: Hydrochidae) in Hokkaido,Japan for the First Time in 31 years
【雑誌・号】
雑誌:SAYABANE N.S
巻・号: No.59 P.44-45